2025年12月20日

1. 「便秘」の考え方が変わりました
これまで便秘といえば「何日も便が出ないこと」と思われがちでした。しかし、最新の医学的な定義では、**「毎日出ていても、すっきりしないなら治療が必要」**とされています。
「慢性便秘症」のサイン
以下の症状がいくつか当てはまる場合、あなたは慢性便秘症かもしれません。
強いいきみ: 排便のとき、強くいきまないと出ない。
便の硬さ: 便が硬い、コロコロしている(ウサギのフン状)。
残便感: 出した後も、まだ残っている感じがする。
閉塞感: 出口が詰まっているような感じがする。
回数: 自力での排便が週3回未満。
ポイント: 「毎日出ること」よりも、「快適に出せること(完全排便)」が治療のゴールです。

2. 便秘のタイプと対策
便秘は大きく分けて「回数が減るタイプ」と「出すのが難しいタイプ」があります。
① 食事と水分の工夫
基本は「腸を動かす」ことと「便を柔らかくする」ことです。
朝食を抜かない: 朝食は腸を目覚めさせる最大のスイッチです。
食物繊維: 1日18〜21gが目標です。
おすすめ食材: キウイフルーツ、プルーン(エビデンスレベルが高いとされています)、納豆、オクラ、海藻など。
水分: 便を柔らかくするためにこまめな水分摂取を。
② トイレでの姿勢(ロダンの「考える人」のポーズ)
洋式トイレでは、直腸と肛門の角度が十分に開かず、便が出にくいことがあります。
前傾姿勢: 上体を少し前に倒す。
足台を使う: 足元に小さな台を置き、膝が腰より高くなるようにすると、和式トイレのような「しゃがむ姿勢」に近づき、便がスムーズに出やすくなります。
③ お薬の使い分け
自己判断での漫然とした下剤使用は避けましょう。
ベースのお薬(毎日飲む): 便を柔らかくするお薬(酸化マグネシウムやPEG製剤など)。クセになりにくく、調整しやすいのが特徴です。
レスキューのお薬(困った時だけ): 腸を刺激して動かすお薬(センナなど)。効果は強いですが、**毎日使い続けると効きにくくなる(耐性)**ことがあるため、ここぞという時の「頓服(とんぷく)」として使います。
新しいお薬: 近年、腸の水分を増やしたり、腸の動きを助ける新しいタイプのお薬(上皮機能変容薬や胆汁酸トランスポーター阻害薬など)も登場しています。
3. 「慢性下痢症」について
4週間以上、軟便や水様便が続く場合は「慢性下痢症」と診断されます。
原因はさまざまです
食事・嗜好品: アルコール、カフェイン、香辛料、人工甘味料(キシリトールなど)の摂りすぎ。
お薬: 抗生物質や痛み止めなどの影響。
病気: 過敏性腸症候群(IBS)や炎症性腸疾患など。
下痢の時の食事のヒント
低FODMAP(フォドマップ)食: 小腸で吸収されにくい糖質(発酵性糖質)を控えると、お腹の張りや下痢が改善することがあります。
控えたほうがよいもの(例): 小麦(パン・パスタ)、玉ねぎ、ニンニク、牛乳、豆類など。
比較的安心なもの(例): 米、肉、魚、卵、バナナ、ニンジンなど。
プロバイオティクス: 整腸剤(ビフィズス菌や乳酸菌など)で腸内環境を整えることも有効です。
4. こんな時はすぐに受診を(アラームサイン)
便通異常の裏に、重大な病気が隠れていることがあります。以下の症状がある場合は、早めに医師に相談してください。
血便: 便に血が混じっている、便が黒い。
体重減少: ダイエットしていないのに体重が減る。
急な変化: ここ最近、急に便秘や下痢がひどくなった。
発熱や腹痛: お腹の激しい痛みや熱を伴う。
家族歴: 家族に大腸がんや炎症性腸疾患の方がいる。

5. まとめ
便通異常は、恥ずかしいことではありません。生活の質(QOL)を下げないために、また将来の健康を守るために、適切なケアが必要です。 「たかが便秘・下痢」と我慢せず、お気軽にご相談ください。一緒にあなたに合った「快適な排便」を目指しましょう。
参考文献: 日本消化管学会編『便通異常症診療ガイドライン2023 – 慢性便秘症 / 慢性下痢症』
坂井クリニック 副院長 坂井大志